若い時は生きる苦しみが大半を占めますが、老年期になると「生老病死」のすべてを味わうことになります。

そしてこれらは、人生で作り上げて持っていたものを喪失することから始まるのです。

1.身体・精神の強さの喪失

老化による体力などの低下

筋力や骨の強度は低下します。転倒しやすくなり、骨折なども経験します。その結果、外出を避けてしまい、運動不足になる傾向があります。この傾向は悪循環を引き起し、運動不足がさらに筋力や骨の強度を低下させるのです。

そして五感の感度が低下します。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の感度が鈍くなるのです。
近年増加している高齢者ドライバーの事故は、ブレーキとアクセルの踏み間違いで起こることが多いのですが、これも感覚や知覚の低下によるものです。

病気にかかりやすくなる

糖尿病
日本人の国民病と呼ばれています。糖尿病患者は約950万人、そのうち半数の475万人が65歳以上の高齢者です。放置しなければ死に至ることはないですが、様々な合併症を起こします。

骨粗しょう症
骨粗鬆症による骨折は、高齢者にとって致命傷です。適切な治療があれば骨折自体が治癒しますが、骨折によって動かない期間ができてしまうことが、別の問題を引き起こします。動かない間に筋力が低下することで、寝たきりの状態になってしまうことが多いためです。

脳出血、脳梗塞
脳内の出血や梗塞(詰まること)により身体に麻痺が発生します。
近年の医療技術の進歩により、死亡者数は減少しています。
しかし後遺症のため、その後の生活に支障をきたすことが多い病気です。

心臓疾患
心臓の血管が詰まることで起こる病気です。死に直結することが多々あります。日本人の死亡率第2位で、糖尿病のような生活習慣病が引き金となって起こります。

肺炎
誤嚥(食物などが肺に入ること)による肺炎が起こりやすい。高齢者施設での死因の1位です。年間12万人以上が肺炎によって死亡しています。

認知症
認知症は、一般に思われているような、呆けて何もわからなくなっている状態ではありません。どちらかと言えば、まだら認知症を患っている高齢者が多数を占めます。
普段は言動がしっかりしているようでも、時々周囲を戸惑わせる行動を取ることがあるのです。

容貌の変化

女性は特に受け入れたくないことです。高齢になっても異性へのアピールをしたいとの思いは、若い頃と変わりがありません。しかし容貌が変化することで、生殖能力の低下を実感し、歳を重ねたことに気づきます。

記憶力の減退

若い頃より、短期記憶が低下します。
短期記憶とは文字通り、今見たばかりの数十秒間程度を記憶する能力です。
他人の仕事を見て、すぐにそのまま同じ行動を取る。「見て覚える」ことですが、このような能力は20代がピークになります。その後、低下してゆき、高齢になると激減します。

ただし、長期記憶はほとんど低下しません。
人生の体験で得た出来事などは、長期記憶として長期間保管されます。これは忘れているようでも、きっかけがあれば思い出すことができます。認知症にならないかぎり、失われることはありません。

環境の変化について行けない

引っ越しなどの環境の変化が精神的ストレスとなって、心を病むことがあります。

2.家族や社会とのつながりの喪失

子供の自立や結婚

子供は成人すれば、独立します。また、結婚し家族を持つようになればさらに疎遠になるのは仕方がないことです。

定年退職

男性は定年退職を境に、同僚や部下との付き合いがなくなります。日本の男性は、仕事にほとんどの人生を費やす傾向が強いため、退職後は地域との関係も作ることができずに、引きこもりがちで孤独になる傾向があります。

配偶者や友人との死別

高齢になるのは自分だけではありません。配偶者や知人も歳を重ねてゆき、彼らが先に死去することを経験します。理解者や共に人生を歩んだ人々を失うことは、大きなストレスとなります。

3.経済力の喪失

退職後は、年金や貯金で生活をしていくことになります。現役時代には考えることのなかった不安を感じます。

4.生きがいの喪失

仕事上での役割、家庭での役割を失うことで、自分の存在価値を見失い、精神的に不安定な状態になりがちです。

喪失体験への5つのタイプ

高齢者のシニア体験
喪失によるストレスに、対処は次の5つのタイプに分類できます。
生き方はそれぞれなので、どのタイプが正しく、どれが間違っているという訳ではありません。

ただし、客観的に自分または被介護者を見つめるには有効です。

成熟タイプ

過去と現在を受け止めて、自尊心をもっている。
社会との積極的な交流を続けようと努力する。

隠遁依存タイプ

悠々自適を楽しんで生活している。他者からの援助を当てにする傾向がある。

装甲タイプ

自己を防衛するため、精力的に活動する。老いや死への恐怖に対抗しようと努力する。

外罰タイプ

自分が高齢者であることを受けとめられない。そのため、周囲に対して攻撃的で、恨み、非難などを繰り返す。攻撃的であることで自分を支えている。

内罰タイプ

過去や現在の自分の価値を見いだせず、自分を責めて、悲観的になっている。うつ状態になることも多い。

高齢者自身の対処

喪失したことに囚われない

自分ができることを考えて、その能力を保持し伸ばしてゆくことです。
音楽、読書、ゲームなどを行い、脳を刺激しましょう。脳への刺激が少なくなると、残っている機能の衰えが進みます。

ロコモシンドローム(運動器症候群)への注意

運動器の障害ために身体機能の低下した状態を、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)といいます。略してロコモとも呼ばれます。

運動器とは、筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった身体を支える部位を指し、立ったり、歩いたりするために不可欠な機能で、ロコモになると簡単な日常生活にも支障をきたすようになります。
進行すると介護が必要になるので要注意です。

周囲の対処

変化をよく見る

元気がないときには、身体の調子が悪いのか、精神的な悩みなのかを注意する。
自分の症状をはっきり表現できないこともあります。こちらから話しかけて、状態をよく見ましょう。

励まさない

「頑張って」と励ますことは、ある意味その人を追い込むことになります。ほとんどの高齢者は、頑張って生きています。さらに頑張れと言われてしまうと、逆にプレッシャーになる高齢者もいるでしょう。

話の内容を否定しない

“励まさない”ことと同じ意味です。どんなに話の内容が矛盾したものであっても、否定されることは人生の否定につながります。「自分の人生に価値はなかった」「このまま長生きしても意味がない」と思わせることは絶対に避けましょう。

本人ができることはしてもらう

体力や記憶力は衰えても、できることは沢山あります。周囲が頼りにすることで、自信や生きがいにつながるのです。
料理、掃除、買い物など、たとえ時間がかかっても、本人ができるのであればしてもらいましょう。

共感して寄り添うこと

1日のうち短時間でも話を聞くことが、ストレス解消に効果的です。同じ話を繰り返されても、寄り添って聞くことは、高齢者にとって、自分の存在を認めてくれる人がいることを認識させるのです。

人は生まれてきたからには、必ず老いと死を迎えなければいけません。誰もが頭では分かっていることも、自分がその立場に立たされると狼狽するものです。
生まれてきたことに意味があるのならば、老いること、死にゆくことにもきっと意味があるはずです。

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