いまだタブー視されている障がい者・高齢者への「性の介護」

障がい者や高齢者(特に認知症患者)の介護において、「性の介護」というのは、本人だけではなく、家族や介護士といった介護する側にとっても、非常にデリケートな問題です。
公に議論されることは少なく、いまだにタブー視されている面も多い性の介護については、人々の理解や国家助成の面など未熟な点が多く、大きな課題を残してします。

支援や理解の不足…海外でもいまだ課題の多い「性の介護」問題

性の介護について、人々の理解やサポート体制がしっかりと組まれていないのは、日本だけではありません。
ヨーロッパのいくつかの国には「性介護士(セクシュアル・アシスタント)」という仕事がありますが、多くの人たちから正しい認識を持ってもらえない状態で、時折「性介護士は医療福祉なのか、それとも売春なのか」という論争が起きています。

性介護士が法的な資格となって既に8年以上経過しているスイスですら、「介護士=売春婦」という認識が根強く、偏見や誤解は完全に解けていないようです。
性介護士はあくまで「副業」としての職業であり、本業がないと認められない点や、高額な料金を利用者が全て支払うシステムなど、いわゆる「性的サービス業」と変わりないことも、理解を得られない理由のひとつなのかもしれません。

また、フランスでは、性介護士という職業は存在するものの、いまだ法的な資格として認めてもらえず、支援団体などが理解を求める運動を行っています。

障がい者の性と性の権利、「セックス・ボランティア」とは

性的衝動・欲求というのは、人間が持つ自然な現象のひとつで、障がい者も例外ではありません。
身体的な問題で、ひとりで性処理の出来ない障がい者や、性的衝動をコントロールできない重度の知的障がい者に対して、家族である母親が介助のひとつとして、射精の手助けをするという場合があります。

しかし、性的な話題が出ることすら避けるという人が多い親子の間柄では、この方法は双方に大きなストレスを伴います。
受ける側は自分の性的欲求を知られること、性欲処理を手助けしてもらうことに抵抗と屈辱を感じてしまうでしょうし、そこに「性行為を楽しむ」ことや、「肌の触れあいを通して得る、安らぎや充実感」という概念は存在しません。

そういった問題を含めた障がい者の性の権利を守るひとつとして、セックス・ボランティアという仕事があります。

障がい者への性の介助…日本のセックス・ボランティア

セックス・ボランティアとは、性行為の介助をしてくれる人のことをいいます。その名称から、障がい者と直接セックスをする、もしくはそれに近い行為をすると考える人もいるかもしれませんが、そうではありません。

日本のセックス・ボランティアが行うのは、介護用手袋をした手で性器の洗浄・刺激によって射精を促す「射精介助」や、自慰をするための用具選びや購入の代行、自慰用具の装着をサポートするなどの「自慰介助」といったもので、あくまで「性欲処理の介助」です。

また、知的障がい者への性教育(HIVなどの感染症予防・避妊指導)をしたり、風俗店を利用したい時に、予約や実際にサービスを受けるまでの介助など、仕事の内容は様々。しかし、未だに多くの誤解や偏見が多いのが現状です。

国によって制度化されているオランダのセックス・ボランティア

売春が合法化されているオランダでは、性行為によって金銭を得る「セックスワーカー」は自営業者として認識され、税金を納め、医療保険に加入しています。このことから、自治体の中には、セックスワーカーから性的サービスを受けた人が障がい者であった場合、条件次第では医療保険の適用を認める場合もあるようです。

障がい者向けの性的サービスを仲介・介助してくれる団体がいくつか存在し、看護師の派遣や、セラピストによるセックスセラピーなどを行っているところもあるとか。サービス利用者は6:4の割合で知的障がい者が身体障がい者を上回り、性別は男性が9割を占めているそうです。

女性の利用者がほとんどいないのは、性的な行為において、男性よりも精神的な繋がりを求める場合が多いからなのでしょう。
女性の性欲処理については、男性以上に理解を得られない…という事なのだとしたら、そこも大きな課題のひとつと言えるでしょう。

高齢者の性問題…介護者に求めらる対応策とは

性の介護
「性の介護」の問題は、障がい者に限った話ではなく、高齢者を介護していく上でも、大きな壁になる場合があります。
「高齢者には性欲がない」と思っている人もいるそうですが、それは大きな間違いです。

確かに人の性的欲求は、加齢と共に減少していきますが、その減少過程には個人差がありますし、実際、介護施設では、部屋やお風呂場などで自慰行為を行う高齢者がいたり、更には職員・入居者へのセクハラ、入居者同士恋愛からの性トラブルなど、様々な問題が起きているのです。

まずは高齢者の性的欲求に対する理解を示そう

高齢者に性欲があるということを受け入れられず、勃起をしている姿や、精液のついたティッシュやおむつを見て、ショックを受けてしまう家族や若い介護士は少なくないそうですが、高齢者であっても性的欲求・衝動は生理現象のひとつだと介護する側が理解を示し、冷静に対処していく事が肝心です。

例えば、運動や創作、レクリエーション活動に積極的に誘い、性的欲求からくるエネルギーを別のことで消化させることで、性的な問題行動が減る高齢者もいますし、入浴の際に優しく声をかけながら、体をマッサージしてあげて、タオルで性器を丁寧に洗ってあげるだけでも性衝動が和らぐということもあります。

もちろん、これで全ての性的問題行動が解消される訳ではありません。しかし、ちょっとしたスキンシップや、コミュニケーションを大切にしてあげることで緩和される場合もあります。それだけでも充分「性の介護」に繋がることなのです。

認知症の高齢者には基本のケアを徹底する

認知症を患った高齢者の場合、前頭葉の機能が低下したことによって抑制が効かなくなっている状態なので、施設内のひと目に付く場所で自慰行為をしたり、職員や入居者にセクハラでは済まされない行為を及ぼうとする事もあります。

こういった衝動を完全に抑えることは難しいですが、いくつかのケアで、トラブルの回数を減らす、または緩和させることは可能です。
充分な水分補給(毎日1.3リットル以上)と適度な運動、便秘の場合は便通を良くしてあげるなど、認知症患者に対する基本的なケアを徹底するだけで、性的な問題行動が減る場合があるそうです。

克服すべき課題が多い「性の介護」…まずは理解を示すことから

いまだに多くの課題が残る、障がい者・高齢者の「性の介護」。

まずは障がい者や高齢者の性的欲求・衝動は、人として自然な生理現象であるということ、そして、性的欲求不満を解消することで、精神的な安定にも繋がるということを、ひとりひとりがしっかりと認識するが重要です。

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