2012年4月、介護業界においての柱となる「老人福祉法」が改正されました。そこで、これまでただの指導方針でしかなかった「90日ルール」がついに法制化されたのです。これは、有料老人ホームの利用者にとっては非常に大きい意味合いを持ち、また、プラスであるといえるでしょう。

ここでは、「90日ルール」が一体どのような法制度なのか、詳しく解説していきます。

「90日ルール」とは有料老人ホームにおける「クーリングオフ」

老人福祉法の改正によって法制化される前にも、「90日ルール」というものは存在していました。これは、「〇〇の契約を行ってから90日以内の契約解除のケースでは、一時金の全額をお客様に返還すること」とされており、正式には「短期解約特例制度」と呼ばれています。

つまり、有料老人ホームに入居したもののサービス内容が想像と食い違っていた、入居者にとって環境が合わなかった…などの理由から短期の間に退去を申し出た場合、一時金=入居時に支払う契約金が払い戻されるという、いわゆるクーリングオフのような制度です。

一般的には、自らが出向いて商品を購入したケースや、通信販売などでの購入に関しては、原則クーリングオフ制度は適用されません(例外はあります)。
ですから、介護業界における「90日ルール」とは、クーリングオフの中でも特殊な部類に入ると考えられます。

「90日ルール」法制化の目的はルールの公正化

以前よりそのような制度が存在していたにも関わらず、なぜ「90日ルール」は法制化されたのでしょうか?

それはルールの公正化をはかり、利用者の権利を守るためだと言えます。
「90日ルール」が法的な効力を持っていないのであれば、当然ルールを守らない施設も出てきます。

つまり、何らかの事情で入居者が短期間に退去しなければならなくなったとしても、支払った金銭は運営者側に入ったままになります。これでは、施設の運営者だけが得をすることになり、入居者側からしてみれば、90日ルールがあるのに損をさせられたことになります。

施設にもよりますが、有料老人ホームの入居一時金はけっして安いものではありません。退去後に別の施設に入居したくても、お金がすぐ戻ってこなければ入居一時金を支払うことが困難な場合もあるでしょう。

こういった有料老人ホームの入居一時金に関するトラブルや国民生活センターへのクレームが絶えない現実を背景に、「90日ルール」が法制化されることになったのです。

有料老人ホームにおける入居一時金の金額と内訳

有料老人ホームの入居時に支払う「入居一時金」、その金額は入居する施設によって大幅に差があります。

どのくらい差があるかというと、最低で0円~最高で数億円というレベルです。入居一時金が0円という施設に関しては、トラブルを見越し、入居者側の安心感を得るためにそのようなシステムにしていると考えられます。また、このようなシステムを採用しているのは、介護施設を運営する大手企業がメインになっています。運営資金に余裕があるから可能だと言えるでしょう。

入居一時金は、月額費用(介護費、雑費、食費など)とは別途かかるものです。具体的には、施設を利用できる権利や家賃相当分の前払い金にあたります。金額は、施設の利用料と家賃を足したものに入居期間(想定)をかけて算出しているところが多いようです。

つまり、入居一時金は償却されていくことが前提となります。償却期間も施設によって違いがありますが、多くは5年前後~15年前後とされています。

「90日ルール」の法制化前と後の違いとは?

90日ルール

「90日ルール」が法制化される以前の問題点

「90日ルール」が法制化される以前、多くのクレームが国民生活センターに寄せられていた原因として、入居一時金返還に関するルール自体が施設によって曖昧だったことが考えられます。
施設が独自に「30日ルール」や「60日ルール」を設定していたり、はじめからそのルールを設けてさえいない施設もありました。

そして、最大の問題点は「90日ルール」が法的効力を持たないため、これを順守しない施設が非常に多かったことです。その場合、例えば一日だけ入居してすぐに退居しても、入居者側は多額の入居一時金を失うことになります。極端な例を挙げれば、数千万円単位のお金を一度に損失するケースもゼロではなかったということです。

また、返還の時期が施設によってまちまちで、数か月後に設定しているところも少なくありませんでした。そうなると、返還金を元手にすぐ別の施設へ入居しようと考えていても、それが実現できなくなります。

「90日ルール」が法制化された後の利用者側のメリット

「90日ルール」が法制化されたことにより、入居一時金の返還に関する明確な基準が設けられました。これにより、利用者が入居から90日以内に退居する場合、施設側は入居一時金から経費を差し引いた金額を入居者に返還する義務が生じたことになります。

そして、万一「90日ルール」に反した場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が命じられることとなりました。「90日ルール」を各施設の重要事項説明書に記載することが義務付けられたため、「90日ルール」に法的効力が生まれたのです。

また、権利金(礼金、みやげ金など)を名目とした入居一時金・その他の金品の受領が禁じられたことも、利用者側にとっては大きなメリットだと言えるでしょう。さらに、以前からトラブルやクレームが多かった「入居者の死亡による退去」についても、入居一時金の返還が適用されることが明記されました。

「90日ルール」が法制化されることで、利用者側が負う金銭的なリスクが大幅に軽減されたと言えるでしょう。

しかし、施設によっては「初期償却~%」など初期償却と呼ばれるものを設定しており、その場合、入居と同時に表示分の入居一時金が償却されてしまうため注意が必要です。
例えば初期償却が50%に設定されている場合、たとえ一週間で退去しても、返還金の半分が差し引かれてしまうことになります。

入居前に施設の重要事項説明書にはしっかり目を通すこと!

「90日ルール」はあくまでも契約から90日以内であることが原則です。万が一解約日が90日を過ぎてしまうと入居一時金は返還されなくなってしまうということは頭に置いておきましょう。

また、法が改正されたにも関わらず「90日ルール」を順守していない施設が存在しないとも言い切れません。トラブルに巻き込まれないためにも、重要事項説明書の内容はあらかじめよく読んでおくべきです。

そして、返還金を算出する上で重要となる「償却期間」や「初期償却」についても、はじめに確認をとっておくことをおすすめします。

──────────────────────────────────
介護リフォームマガジン
https://www.kaigo-reform.com
──────────────────────────────────

運営会社 株式会社オールシステム

Facebook https://www.facebook.com/allsystem.web
Twitter  https://twitter.com/alls_mag

〒460-0003
愛知県名古屋市中区錦1-17-13 名興ビルディング7F
TEL 052-220-5250 / FAX 052-220-5285
URL https://www.allsystem.jp/