実は、自動車運転者全体から見ると、死亡事故発生総数は、ここ10年で約4割以上減少しています。そして、16歳から24歳の若年層による事故も6割以上減っています。

ところが、65歳以上の高齢者ドライバーの事故は増加しており、これから更に増えていくと予想されます。

高齢者ドライバーの3つの特徴

高齢者ドライバーが事故を起こしやすくなるのは、次に挙げる3つの特徴のためです。

1.視野が60度以下になってしまう

理想は左右90度まで視野が広がることですが、65歳を過ぎると60度以下になります。これは、正面を見て運転している場合、左右がほとんど見えていないことを意味しています。

例えば、自動車専用道路を走っている際、歩道にいる歩行者の動きを目視できていないのです。
そのため、歩行者の飛び出しなどへの対応が遅れてしまいます。

2.処理能力の低下で同時処理ができない

複数の作業課題を同時に処理できないのです。
交差点など、複数の対象物を見ながら、安全に運転する技術を要求される場所での事故。
例えば、交差点での右折です。

普通は、次のような処理を同時に行わなければいけません。

運転時の動作処理

前方の信号が青であっても、直進車(対向車)を優先しながら、右折するタイミングを待つ。
右折しても、横断歩道を歩行者や自転車が通行しているので一旦止まる。
左右の両者を一度に確認しながら右折を終える。

若い頃には簡単にできていた動作ですが、高齢者ドライバーは、処理能力が低下しているため、時間的余裕がありません。若者の平均は1.9秒、高齢者の平均は1.2秒です。0.7秒しか差はありませんが、自動車の速度を考えると10メートル以上進んでいることになります。

そのため、対向車の接近と歩行者の通行の両者を判断できずに、どちらかと接触してしまう事故に繋がります。

3.運転能力に対する過信で油断してしまう

若い頃から運転している高齢者は、自分の運転に自信を持っています。
とりわけ、運転を職業としていた人ならば、プロとしての意識がはっきりと残っている。
しかし、加齢による衰えはどうしても避けられないものです。

免許保有者全体に「事故を回避する自信がありますか」とのアンケートを行うと、60歳から70歳の人達の「自信がある」と答える割合が、他の世代に較べて明らかに多くなります。つまり高齢者は、自分の経験から、運転能力を過信しやすく、その分油断をしてしまうことになります。

自動車運転には大きな障がいとなる「白質病変」

白質病変
脳は高齢になると一部の血流が悪くなり、「白質病変」という状態になりやすいです。
誰でも起こりうる軽い脳障害なので、日常生活には問題はありません。病院を受診しても認知症とは診断されない、ある意味微妙な状態です。
しかし、自動車の運転に関しては大きな障がいとなります。

高知工科大学、地域交通医学研究室の朴啓彰客員教授が、過去10年間のアンケートから白質病変が運転にあたえる影響を調査しました。
脳ドッグを受けた4000人の交通事故歴と脳の画像の異変をつきあわせたところ、白質病変がある人はない人と比較して、1.6倍の事故を起こしていたのです。

病識が無い認知症の高齢者ドライバーの増加

認知症は脳の病気です。アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症などがあります。
これらの病気がドライバーの事故に繋がりやすい理由は、「本人に病識(病気であるとの自覚)がない」からです。

病識がないため、家族が止めても強引に運転しようとする方が多いようです。
その結果、運転中に行き先を忘れる、交通ルールの無視、運転中にぼんやりして運転動作を間違える、注意・集中力に変動があり運転技術にムラがある、等の事態になってしまうのです。

運転免許証更新の際に受講や検査を受ける必要がある

70歳以上の高齢者ドライバーは、免許証の更新前に高齢者講習の受講を受ける必要があります。
そして、75歳以上のドライバーでは、高齢者講習以外に認知機能検査(講習予備検査)を受ける義務があります。

認知機能検査(講習予備検査)でチェックされる3つの機能は以下の通りです。

    1. 時間の見当識

検査時の年月日、曜日、時間をチェックします。

    1. 手がかり再生

イラストを見せ、一定の時間の後どれだけ覚えているかチェックします。

    1. 時間描画

時計の文字盤に、指定された時間の針を描けるかどうかをチェックします。

運転経歴証明書は身分証明書として使用可能

運転免許証
免許証を返納した場合、困るのは身分を証明書する書類を無くしてしまうことです。そのため、免許証返納を拒否する高齢者も多いのです。

救済措置として「運転経歴証明書」の発行があります。
自主的に運転免許証を返納した人は、運転経歴証明書の交付を受けることができます。
運転経歴証明書によって、過去の運転経歴を証明できるのです。

免許証を返納した日から、5年以内であれば交付を受けることが可能です。
そして、平成24年4月1日以後に交付を受けた運転経歴証明書は、交付されて6か月経過して以降も、身分証明書として運転免許証と同じように使用できます。

例えば、銀行口座の開設やパスポートの発行などの際に必要な身分証明書として使用が可能です。また、高齢者運転免許自主返納サポート協議会の加盟店や文化施設、美術館などで、特典を受けることもできます。

免許返納をしてもらうにあたっての課題

危険な運転を行う高齢者ドライバーには、免許証を返納してもらうことが最善の方法になります。

しかし、そこには課題があります。

高齢者の個人差

高齢者であるからといって、一概に危険であると決めつけることはできません。
高齢であっても、若者よりはるかに安全運転をしているドライバーもいるからです。

自動車以外の交通インフラの不足

都市部では交通インフラが整備されていますが、地方では自動車なしには買い物、病院への通院などの移動手段がないことも多いのです。

近年では各都道府県によって対応している地方も増えつつあります。免許証を返納した高齢者に、買い物の荷物を無料で配送するサービスなどがあります。

高齢者ドライバー本人の反発

本人自身に「私は危険な運転をしている」という自覚がないことが、最も大きな問題です。
特に、軽中度の認知症の場合はプライドを傷つけられることで、家族と揉めることが多く、強引なやり方では大きなトラブルを家庭内で引き起こします。

どんなに親しく近しい間柄でも、高齢者に「危険だから運転するな」と頭ごなしに指示・強要することは避けるべきです。運転能力の衰えを本人自身で自覚・納得してもらうことが大事なのです。
第三者(医師など)による説得や運転免許センター、警察への相談をするのも良いですね。

高齢者の方の心に寄り添うように、真摯に粘り強く接していけばきっと、理解をしてもらえるでしょう。

──────────────────────────────────
介護リフォームマガジン
https://www.kaigo-reform.com
──────────────────────────────────

運営会社 株式会社オールシステム

Facebook https://www.facebook.com/allsystem.web
Twitter  https://twitter.com/alls_mag

〒460-0003
愛知県名古屋市中区錦1-17-13 名興ビルディング7F
TEL 052-220-5250 / FAX 052-220-5285
URL https://www.allsystem.jp/